大判例

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岡山地方裁判所 昭和46年(わ)928号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決理由〕(罪となるべき事実)

被告人は、

第一、昭和四六年一二月二〇午前一時二〇分ごろ、岡山市西大寺町岡山信用金庫西大寺町支店前付近を南に向け着物姿で一人歩行している延原春江(当時二五歳)を認めるや、劣情を催し強いて同女を姦淫しようと企て、同女と併進しながら同女に対し「今夜つきあえ」等と二、三度声をかけたところ、同女より「行かん」とすげない態度で断られたものの、尚もしばらくこれを追尾した後、矢庭に同女の身体を掴み「こつちへ来い」等と言いながら、同市京様町一二番八号横川石油店駐車場の駐車中の車の陰に引つぱり込んで仰向けに押し倒したうえ、大声で救いを求める同女の頸部を強く締めつけ、「わしと今晩付き合え、死んでもええんか」等と脅迫しながら、パンティに手を掛けてこれを引き裂き、その反抗を抑圧して強いて同女を姦淫しようとしたが、同女が一時逃れに「ここではやめてくれ、ホテルに行こう」と言つたのを真に受けて油断した隙に逃走されてその目的を遂げず

第二、右第一の犯行後、同日午前一時三〇分過頃再び同女を捜し求めて右犯行場所付近に立ち戻つたところ、同市同町一一番一三号浅沼アパートの同女方居室に一旦戻つた同女が、同アパートの鍵を落したことに気付き、右犯行場所付近迄右鍵を探し求めるため赴いたのを認め、再び同女に追いすがり前記アパート入口付近において同女に対し、「ホテルに行こう、来い」と言いながら同女の着衣右袖を強く引つ張る暴行を加え

第三、右第二犯行の日時、場所において、右着衣を引つ張つた際、たまたま破れた右袖とともに同女の所持していた現金六〇〇円在中の財布等の入つているハンドバック(時価約三、五〇〇円相当)が自己の手中に入るや、右ハンドバックを窃取した

ものである。

(証拠の標目)省略

(強盗の訴因につき暴行と窃盗との併合罪と認定した理由)

判示第二、第三の事実につき検察官は強盗罪であるとし、公訴事実は「被告人は同日午前一時三〇分過頃、同女が同市同町一一番一三号浅沼アパート同女方居室に戻つたところ、前記路上付近に同アパートの鍵を落したことに気付き、同路上付近まで鍵を探し求めるため赴いたのを認め、同女の着衣右袖を引き破つて剥ぎ捨て、同女の右腕を強く掴み、その反抗を抑圧したうえ、同女所有の現金六〇〇円在中の財布および雑品在中のハンドバック(時価三、五〇〇円相当)を強奪したものである。」というのである。

ところで、被告人は司法警察員に対しては「……着物をつかんで引つ張つたらパリッという音がして女のたもとの片方がちぎれたのです、そうしていると女が大きな声で助けを呼ぶので気が悪くなつて持つていたハンドバックをひつたくつて取つて逃げました。」とか、「……着物のたもとがちぎれてしまつたりしたし、どうもホテルに連れて行くことができんので、気が悪くなつて女が持つていたハンドバックをひつたくつて取つたのです。」とか「……女が持つていたハンドバックもたもとと一緒にひつたくつて取つたと思います。」等と右強盗の訴因に一応沿うかのような供述をしている。しかしながら、右の供述だけからでは、被告人が被害者の袂を引つ張つた際に被告人において、同女がハンドバックを所持しているのを知つていたかどうか及びこれを奪取しようという意思があつたかどうかは必らずしも判然としないばかりか、被告人の当公判廷における供述および被害者延原春江の当公判廷における証言によれば、被告人は判示第一の犯行後、再び同女を捜し求めて現場付近に立ち戻つたところ、同女を見つけたので今度こそ捕えてホテルへでも連れ込んで同女と肉体関係を持とうと考え、被告人の姿を認めて驚き逃げようとする同女の右袖をいきなり掴んで二、三メートル引きずるように強く引つ張つたところ、右袖がちぎれ、このためたまたま同女が右手に持つていたハンドバックも同女の手から放れ右袖と一緒に被告人の手元に渡つたという事実が認められる。本件は酒に酔つた勢いも加わつた被告人が、肉体関係を持とうと最初から執拗に同女にからみ追いまわした末、同女に逃げられ、ほどなくしての犯行であること、同女の所持していたハンドバックは小ものを入れるための一五センチメートル角位の大きさの小さいものであつたこと、等の事情を総合して考えると、被告人が同女の右袖を掴んで引つ張つた時、同女の大きな右袖に隠れ同女の所持していたハンドバックに被告人は気付かず従つてハンドバックを奪取しようという意思も有していず、被告人としてはちぎれた右袖を手にしてはじめてハンドバックのあることに気付き、同女に逃げられた腹いせに右ハンドバックに何か入つているかもしれぬと考えこれを持つて逃走したものと認めるのが相当と考えられる。従つて本件においては強盗罪の成立要件たる暴行(或いは脅迫)を加えた時点での財物奪取の意思の存在が認められないから、強盗の訴因の立証はなかつたことになる。

しかしながら、被告人が同女の右袖を強く引つ張つた所為は暴行罪に該ることには異論はないが(たとえ強姦の意思でなしたにしても未だ強姦の実行行為とはいえないから強姦未遂に問いえないのも当然である。)、手元に入つたハンドバックを見てからこれを不法に領得しようと考えそのまま持ち逃げした所為については右ハンドバックの占有の帰属をめぐつて窃盗罪を認めうるか否か多少疑問がないではない。しかしながら刑法でいう占有は、人が物を実力的に支配する関係であり、現実的なものではなければならないが、現実の握持を必らずしも必要とするものではないと解するところ、本件においては被告人がハンドバックを不法領得する意思を抱いた時点では、確かに被告人が右ハンドバックを現実に握持してはいたものの被告人が右不法領得の意思を抱いたのは、ハンドバックが被害者延原春江から自己の手元に渡つて直後のことであり、同女も被告人からいくらも離れていない所に立つて被告人が右ハンドバックを持ち逃げしたのを現認しており、更に本件は被告人が被害者からその財物の握持を離脱させた自己の行為を利用してその財物を不法に領得したものであること等の事情を考慮すると、被告人が右ハンドバックを認め不法に領得する意思を抱いた時点においては、被害者の右ハンドバックに対する支配力は尚及んでいたものと考えるのが相当であり、従つてこれを持ち逃げした所為は窃盗罪に該当することになり、右暴行と窃盗とは別個の二個の行為とみるべきであるから併合罪の関係に立つものと考えられる。

(黒川四海 谷口貞 鈴木敏之)

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